24年7-9月期、TSMCの売上高は7597億NTD(3.4兆円)の過去最高を記録しましたが、ウエハ出荷量は過去最高の22年7-9月期から▲16%減少しています。最高売上に押し上げたのは、ドル建てウエハ平均単価が+57%と、2年で1.6倍に上昇したからです。この背景には、微細化と先端パッケージで高機能品の価値が認められ、供給で独走する状況があります。また大きな利益を計上する理由です。売上高の分析とともに今後の技術課題をみていきます。
台湾積体電路製造股份有限公司、英語名はTaiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd.、略称TSMC、世界最大の半導体製造企業として現在では広く知られています。最新の2024年7-9月期の売上高は前年同期比+39%の7597億NTD(3.4兆円)、営業利益3608億NTD、営業利益率47.5%と好業績を叩き出しました。ライバルのインテルは売上高は133億ドル(1.9兆円)、営業損失▲91億ドルの赤字、サムスン電子半導体部門(DS)は売上高29.27兆KRW(3.2兆円)、営業利益3.86兆KRW、営業利益率13%と差が開いています。
下にTSMCの過去10年の四半期別売上高をまとめました。
図1 TSMCの四半期売上高推移
TSMCは、トランジスタを集積した、また最近は、複数の異なる機能を持つ半導体チップを一つのパッケージ上に集約或いは積層した半導体ウエハを製造・販売しています。したがって、その売上高は、ウエハ数量とウエハ単価を掛け合わせたものになります。下記図2は、図1にウエハ数量(12インチ換算)とウエハ単価(米ドル建て)の線グラフを追加したものです。これを見ると、ウエハ出荷枚数は依然22年7-9月期のピーク397万枚には戻らず、24年7-9月期は334万枚ですが、ウエハ平均単価が21年後半の3000ドル強から現在の7000ドル強と2倍以上と急激に上昇していることがわかります。
図2 ウエハ平均単価と12"換算出荷数量
ウエハ出荷数量の低迷は世界のマクロ景気を表しています。先端のAI半導体チップ用を除き、汎用スマートフォン、汎用PCのボリュームゾーンの需要が停滞している事を示します。この傾向は、サムスン電子やマイクロンに代表される汎用メモリ販売動向でより顕著に見られます。20‐21年の世界的なコロナ拡大に伴う在宅経済の進展によるICT機器の需要急増は特異点ではあるものの、その後の調整局面からの回復は緩慢な状況で、大市場の中国経済の低迷も背景にあります。
ウエハ平均単価の急上昇は、AI半導体及び先端スマホを支える、超微細ウエハ(3,5,7nm品で売上の約7割を占める)及びチップレットと呼ばれる複数の機能特化したチップを集積・積層しワンパッケージ化した技術品の価値が認められ、独占的に供給し、売上増加させている事、及び、これら高単価品の売上比率が増えている事が主因です。AI半導体はより大きな計算力と低消費電力を求めています。
図3 2021年後半に<10nm品が売上高の50%を超える
図4 データセンタ向けAI半導体を含むHPC用途の売上構成比の上昇
2022年11月にChatGPTが登場し、新しいAI時代が幕開けしましたが、今後しばらくはAI用半導体が半導体市場を牽引していくと思います。AIは大きく分けて「学習」と「推論」のプロセスがありますが、この2つは分化していくのではと思われます。新たな技術競争が、市場を活性化させるでしょう。
一方、世界のデータセンタが消費するエネルギーは、IEAの推定では、2022年の460TWhから2026年には1000TWhへと倍増すると予想しています。持続可能な戦略として、(1)再生可能なエネルギーの活用、と、(2)エネルギー効率の向上(PUE:電力使用効率の最適化)が求められています。
半導体チップレベルでは、「より大容量で高速の計算力の向上」と「エネルギー効率の改善」を両立させる技術が求められています。TSMCでは、①SoIC(System-on-Integrated-Chips)の進化、②PLP(Panel Level Package)、③光電融合シリコンフォトニクス、が主要テーマに挙げられているように見えます。
半導体は、今や国家の競争力をも左右する戦略製品と位置付けられました。技術力、資金力、人材育成、経営スピード、サプライチェーン管理の総合力が問われています。
ただし、中長期的に競争を決するのは、市場と顧客ニーズに焦点を当てた経営活動だと考えています。過去20年、日本の半導体が後退したのは、決して技術力でも日米貿易戦争が主因でもなく、この20年、裾野が広がる半導体市場のニーズに応えれなかった事、経営焦点を当てれなかった事だと思っています。
参考)換算レート:9月末 4.52円/NTD、143円/USD、0.11円/KRW
By S.Y.
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